Invitation to Autumn Colors 
 
 6 little stories  h o m e h e a r t s



 


秋色の 招待状
   
ある日 町はずれの郵便受けにとどいたのは
木の葉にかかれた 招待状
鼻をくすぐる 枯葉のにおい
かさかさ 耳もとで鳴るのは 秋の音

なんだか とってもなつかしい
この音 このにおい この声は
ちいさなころに 知ってたような
ちいさなころに 仲良しだった

そのとたん 招待状は くるりとひるがえり
「秋色の 旅へ ようこそ」
「まって まってよ どこへ行くのさ」
あわてて 追いかける 一本道
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すこしつめたい風にふかれて
くるり くるりと ターンする
ふしぎな道先案内人

「早く 早く こちらさ こちら」
息をきらして ついていけば
あれよ あれよと かわっていくよ
すずかけの木 栗の木 いちょうの木 
つらなる木々の色 谷あいの林の色
夏から秋へ 緑から赤へ
色と色との七変化

そしていつしか忘れていたこと 思い出す
じょうずな どんぐりの見つけ方
ただしい栗のいがいがの 拾いかた


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かくれんぼうのように
まだまだ 逃げては追いかける
「もう いいかい」
「まだまださ」
「もう いいかい」
「もうすぐさ」

するとまた かわっていくよ
段々になった にぎやかな畑の色
野原にしげる おしゃべりな草の色

そして またもや 思い出す
草穂で鳴らす ハーモニカ
山ぶどうでたてる 鈴の音
楽器なんて必要なかった あのころのこと
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もう疲れたよと 息をつき
たどりついたその場所でまっていたのは
落ち葉にかざられた 秋のごちそう
「さあ いただきましょう」
土の上で 遊ぶ 枯れ葉たちの 合唱
そこに まじるのは 毎日わらってばかりだった
ちいさかった ぼくの声 そっとしゃべりかけてみる

「やあ なつかしいな」
「ああ ただいま」
「よう 元気だったかい」
そしてきづくと ひとり 静かな明るい森の中

それにしても案内人は 
いったいどこに消えたのかな
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