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6 little stories h o m e h e a r t s





春への 窓
ある日 ぼくは その見しらぬ町にすむことにきめました。
寒そうで しずかな 光のたりない その町に。
すると しらない老人が やってきていうのです。

「どうして こんな寒くて しずかで 光のたりない 町に
すむんじゃね。旅人は みな こんなたいくつなばしょにゃ
いられないと さっさと とおりすぎていく町じゃぞ」
「ぼくには まだ たいくつじゃありませんよ。
だって たいくつに なるほど この町を知らないもの。
いやになるほどの 寒さというのも きょうみがあるなあ」

老人は あきれた顔で つぶやきました。
「ほほう かわったお方じゃ。そんなかわったお方なら
例の窓を 見つけるかも しれんなぁ」
「なんですか。その例の窓と いうものは」
ぼくは たずねましたが、老人は首をふりふり 
「きたいしちゃいかんよ。きたいは たいくつを つれてくる」
とかなんとか いいながら すたすた歩きさって しまうのです。
1

ぼくは 老人のいったこともわすれ
町はずれの ちいさなやどに へやをとり くらしはじめました。
外は しずかな ふゆの町。
はっぱをおとした 木々たちが つめたい風に
ちからづよく 立つようすが たいそう ぼくのきにいりました。

そんな ある日 窓のすきまから まいこんできた
みずみずしい みどりの葉。
「おや きみ いったいどこから きたんだい?」
すこし 人こいしくなってきていた ぼくは たずねました。
そのみどり色は へんじを せずに
「こっち こっち」 と さそうように
もときた窓の そとへと とんでいきます。

ぼくは あわてて 葉っぱのあとを おって 窓のそとを
のぞきこんでみた そのときです。
2
めのまえの あざやかな 光が まぶしくて
ぼくは いったい なにがおこったのかも わからずに
あわてて 目を とじました。
ぼくは こうみえても おくびょうもの なのです。

そしてもういちど おそるおそる 目をあけてみると。
そこには 花々が みごとにさきほこる
春色の まちが よこたわっておりました。
「これは おどろいた。ぼくは 夢を みてるに
ちがいないぞ。でもそうだ。夢なら 夢で たのしもう」

おくびょうな ぼくは ふしぎな顔の 宿のごしゅじんに
はしごを かりて 窓の下へと おろしました。
「ああ これは たぶん夢じゃないな」
ちじょうにおりた ぼくは思います。
だって こんなに しなやかな 花びらの かんしょく。
あまく かおる 光の におい。おどる 色たち。
3
春の まちで あそびつかれた ぼくは
よいしょ よいしょ と はしごをのぼると
すみなれた へやへと かえっていきました。
それいらい ぼくは じぶんようの はしごを買って
きがむくと 春のまちへと おりていきます。

ぼくは 町であったいつかの 老人に その話をしました。
「それで あんた どうして ここに もどってきたんじゃね。
あったかで うつくしく 光のあふれた あの町からさ」
老人が そうぼくにたずねます。そういえば と、
ぼくも くびをかしげながら いいました。
「うーん たぶん またいけるからかな。
それに この町には まだべつの窓が 
かくれているかも しれないでしょう?」
「ほっほっほっ。やはり かわった お方じゃの」

そういうと 老人はたのしそうに 肩をゆらし
さむざむとした 町のとおりを 歩きさって いきました。
4


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