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       ニューヨークのおこづかい帳
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2000  March  気分はハバナ その2
●今月のお買い上げ
キューバ発チェ・ゲバラのTシャツ $15
キューバ発トロピカーナのマドラー $0
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                             合計 $15
 
 ラテンの神様は、わたくしをお守りになってくれたらしい。
大騒ぎしたわりには、なんなくキューバからニューヨークに戻って参りました(人生ってそんなもんよね。てへへ)キューバ音楽をめぐる旅。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の映画で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた伝説の老音楽家たちは、それはもう素晴らしい人たちだった。もう80年も90年も生きているから(それも激動の歴史を抱えた国、キューバに)大騒ぎなこともツラいことも、その人生にはたくさん詰め込まれているだろうに。そんなものを超越してしまってるんだよね。
「わしは音楽が好きで、恋が大切で、人生を楽しんでるけんのう」という心意気が、その皺の多いお顔に刻まれてる。ああ、見習わなくては、と思ったよ。やはり、目の前にある好きなこと大事なことを楽しんで、しかも全力で、やっていくことしか出来ないのだと……新しい世紀を迎え、胸に固く誓った私だ。あとはこの気持ちをいかに新鮮にキープするかよね。彼らの話は、スイッチ・パブリッシングから出る単行本「愛がなければ、人生はない」でじっくり味わっていただくとして(あら宣伝じゃないのよ、宣伝じゃ。ほほ)。
 Pee Wee読者向け話題といえば、やはりファッションだ。同行したむさい男連中は、チェ・ゲバラのコイン集めやら戦車の前での記念撮影やら、今百歩、私とは違う視点でハバナの町を堪能していたっけ。そんな中、人一倍お洒落な私は(少し嘘。旅行中、彼らから「ノナカ、また同じ服着てんのかよ!?」とバカにされたことはここだけの話である)、ひそかに町行く人のお洒落度をチェックしてたのさ。
 キューバ一の都会、ハバナの目抜き通りを闊歩する女たちは、老いも若きもそのボディに自信満々である。誰もが、その豊満な肉体にフィットするストレッチ素材のレギンスやボディスーツ、オリンピックのランナーが着るような、あの体にぴたぴたに張り付く服を身につけているのだ。ヘソだし肩だし当たり前。小さい女の子も、オバちゃんも、かなりの太っちょさんも皆が皆そう。ナイロンやポリエステルの素材は、暑い気候にはかなり風通しが悪そうだ。が、そんな細かいことは、見栄えのよさと男の気をひくことにおいては問題じゃないらしい。しかも怖いのはね、見慣れてくると、自分でも着れそうな気になってくるところなんだよな、これが。郷にいっては郷に従えなんて言葉もある。確かタンスの中に、若気の至りで買ったショートのぴたぴたレギンス、捨てきれずにしまってあったっけ。ちっ、持ってくりゃよかったな。まぁ、いいか帰ったら……と、ここでNYソーホーの町を、ヒステリック・グラマーのピンクのプリント柄レギンスで闊歩する自分の姿を思い浮かべ、はっと我に返る。怖い、怖いよ、おやっさん。……そう、スパニッシュハーレムならまだしも、ダウンタウンのブティック街はハバナではない。もうすぐまた一つ年をとる私。いけないいけない、勘違いするところだったぜ。
 それにしてもキューバの女性は、まるでスウィングするようにコーヒー色の肌を揺らして歩く。カリブ一の豪華野外キャバレー、「トロピカーナ」で見たダンサーたちのゴージャスなことといったら。その磨き抜かれた肉体と、滑らかな肌を彩る鮮やかで官能的な衣装。ため息がでるほどだ(ちなみにお土産のマドラーは、ここのショーでかっぱらってきたレア物だ)。太陽の光に似合う、健康的にシェイプされた肉体は、ちょっとばかし余計な脂身がついてたって、「これは私の持ち物なのよ、文句ある!?」の潔さ。ああ、この自信、次にキューバに行くまでに、ぜひとも手に入れたいものである。でもどうやって!? 教えてくれた方に、チェ・ゲバラTシャツ進呈(マジ)。

(追記 in 2001/3)
 このときのチェ・ゲバラTシャツ。かなり気に入り、自分の分もしっかり買ってきたのだが。帰ってきてしばらくすると、びっくり、NYの街のあちこちで売っているではないか。アメリカン・ドルをキューバで使ったことがバレると過激な罰金ものなので、決死の覚悟であれこれ持ち帰ってきたというのにぃ。そして今やまた、ブティックからいつしか消えているあのヒゲと帽子のシルエット。なんだか、ゲバラって一時のトレンドだったみたい、NYじゃ。一時期のマルコムXと同じ、ヒーローもコマーシャル化されちゃう哀しい運命なのである。そして今も私のタンスの中には、ピンクのレギンスとイカつい顔がプリントされたオレンジ色のTシャツ(しかも子供用なのでぴたぴた)が、ひそかに眠っているのだった。くそ。この夏は着てやるぞ。開き直りの新世紀、意識革命だい(意味不明)。

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2000 April  アイ・ミス・ジャパニーズ・コミック
●今月のお買い上げ
吉田秋生 「バナナ・フィッシュ」英語版 $15.95

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                                             合計 $15.95
 
 日本から遠く離れていると、ときどき妙なものが恋しくなる、という発作が起きる。日本にいたらたぶん気にもとめないもの。でも今ここで手に入らないとなると。あら、気になるじゃねえですか。いてもたってもいられなくなるじゃねえですか。食料品などは、それでも大抵の物が手に入る。NYの日本食スーパーマーケットは、本当に充実しているのである。キューバ&メキシコ帰りの私にしてみたら、天国とはこのことよ。おたふくソースもキュウリのきゅうちゃんも「男のポッキー」(←近頃凝ってる)も売ってるよ。TVだって「Hey Hey Hey」(ニ週間遅れだけど)も、一週間分を一日に凝縮するので逆に見やすいワイドショーだってやっている(これも一週間遅れだけど)。ドラマだって、数ヶ月遅れで日本の友人と話題こそかみ合わないが、文句を言わなければまぁ数本は楽しめる。日本語の本も新刊は高いが、ブックオフが出来たし、図書館だってあるぞ。つまりどれもこれもチョイスがすくない分、今まで読んでいなかった作家や見なかったドラマに手が出るってもの。
 ……はっ。ここまで書いて思ったが、なんか負けおしみっぽい?私ってば。だが外国にいたら、日本じゃイエナ書店あたりで高い値のついている洋書(←あたりまえ)が安いのよぉ、ほーっほっほっ。しかし最近、そんな負け惜しみや強がりを越えて、ほしくてたまらなくなっちゃったものがある。マンガである。友達と話していて、あるマンガが読みたくてたまらなくなったのだ。しかもマニアックな青林堂から出ている絶版本なので、ブックオフにも紀伊国屋にもないのよね。その名も知っている人は知ってる、知らない人は誰じゃいソレ、の泉昌之。「かっこいいスキヤキ」である。あの、ハードボイルドの男がトレンチの襟たてながら、思考と分析を重ね駅弁やスキヤキを食べる葛藤。あれこそ男のダンディズムだよねぇ。なぁんて話してたら、目の前でページを繰り、「ここ、この場面最高!」などと語り合いたくて仕方ない。人と笑いを分かち合う、これぞオタク道の真髄なんである。
 ええ、もちろん調べましたとも。インターネットの書籍オーダー・サイトで。思ったとおり、絶版。段取りづくしのお間抜けくん「ダンドリくん」あたりなら出ているのだが。仕方なく最後の手段で、恥(じゃないけどさ)を忍んで、日本の友人にメイル。早速、返事がきた。
「えー、今ごろイズミかぁ。ともそも珍しいヤツだね。まぁいいよ、古本屋で探してあげようではないか」
 「今ごろ」と言われても、すでに何が「今どき」のマンガかわからん私。国際郵便で送られてきた「かっこいいスキヤキ」を有難く拝読いたしやした。おまけに気のきく彼、ちょいHバージョンの「かっこいいスキモノ」(自分の作品もじってるとこがおかしいね)や「ズミラマ」まで入れてくれたではないか。ああ、持つべきものは友人だ。思えば今までも、このパターンで吉田戦車「伝染るんです」や心の師匠、二ノ宮知子の「平成酔っ払い研究所」、相原コージの「かってにシロクマ」を送ってもらったのだっけ。NYの私の本棚にそれらは仰々しくおさまっている家宝なのである。
 お礼に、手塚治虫マニアの彼のために、英語版「アドルフ」を送ってあげた。こっちのコミックショップに行って驚いたが、アニメブームはもとより、結構ジャパニーズ・コミックも人気があるんだね。英語の吹きだしで、左からページを開く、というパターンも妙に新鮮。見慣れたマンガもまるで別物に見えるから不思議である。それにしても日本では大人も子供もこぞって電車の中でマンガを読む光景をよく見かけるが、こちらでは見たことがない。アメコミ・マニアは結構いるが、大体からして日本のようにあんなに充実した厚いマンガ雑誌も存在しないのだ。大抵はカラー刷りのぺらぺらな小冊子のようなもの。私はその昔、スヌーピーのピーナッツ・ブックスが大好きでよく集めたものだが、今のアメコミはほとんど読まないなぁ。なんだかごちゃごちゃしていて読みづらいんだよね、吹きだしも絵も。
 かわりに、一時期ハマったのが、ヴィンテージのコミックスである。50年代や60年代のマンガって、色使いもノスタルジック。キャラクターもすんごく可愛い。しかし当時10セント前後だったそれらは、今やコレクターズ・アイテムで、高値なのがたまにキズだ。大好きな「リトル・ルル」なんて何十ドル、いい状態のものは百ドル以上もしちゃう。こっちでは出版社のカラーごとにファンがついているから、コミック・フェアなどに行くと「Dell」「Harvey Comics」といったコーナーに分かれていて、目当てのものも探しやすいのだ。
 ……と、いうところでこのコラムも今回で最終回。最後を飾るにふさわしく、なんと文化的であったことか。みなさん、こんな私を見捨てず、文学的作品も読んでね。くすん。バイ。
(追記 in 2001/3)
 この文章を読み直したのをきっかけに、本棚で埃をかぶっていたコミックスをひっぱりだしてきた。やっぱりキュートだなぁ、水玉ドットちゃんにおしゃまなルル。デニスぼうやもいいな。1940年代のワーナーブラザーズのキャラクターマンガなんてのも出てきた。ロードランナーの表紙なんて色が超ビビッド。見てるだけで、なんだかわくわくしてくる。「タンタン」や「ネム船長」も大好きだが、いいコミックスってキャラが色褪せないどころか魅力を増していくものなんだね。ひとコマひとコマがイラストレーションとして完成されているのもすごい。私もいつかおかしなキャラクターをつくって、覚えたばかりのアニメーション・ファイルで動かしたら楽しいだろうな、なぁんて思い始めたりして。しかし「文学的作品」に関しては一向に筆の進んでいない私、こんな余計なことばかり考えて日々過ごしておるのだ。



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