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    Don't go over $30!
       ニューヨークのおこづかい帳
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2000  January  ゴージャスなシーズン到来
●今月のお買い上げ
フェイクファーの写真立て $4.99
フェザーのボールベン   $2.99
ショッキングピンクの財布 $3.99
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                         合計 $11.97
 
 また今日も見てしまった。「ゴージャスおばさん」と私が心でひそかに呼ぶ、派手なおばちゃんのことである。どのくらい派手かというと、まぁ「このヒト、素人じゃないな」と思わせるレベルとでもいうのでしょうか。ショッキング・ピンクのボブ・ヘアに、原色の造花がわさわさついた帽子。トンボサングラスのフレームはラメ入りだし、太っちょな足元はアメリカおばさん必須アイテムのぴちぴちスパッツ、もち豹柄。靴も手抜きなくシルバーに輝いておる。「素人ではない」と書いたが、まぁなかばその通りなのである。彼女はけして趣味だけで(まぁ、趣味が大半だろうが)こんな人目をひく格好をしているわけではないらしい。道行く通行人にビラを配る彼女は、そうよ歩く広告塔♪ 念願かなって作ったのであろう(そうとしか思えないよ)派手派手ショップの呼び込みをするため、今日もウエストプロードウェイの角に立つ。ああ、シーズ・ソー・ゴージャス。
 家から歩いて二分の場所にあるその店。いつも横目に通りすぎるだけだった。が、今日ついに、寒い中呼び込みをする彼女の押しの強そうな眼光に射られ、中に足を踏み入れたのだった。その名も「So What!」。それがどうしたのさって意味の店名なのだが。どうしたもこうしたも、店内を眺めた私の目はちかちか。一つ一つのものは、けしてそう珍しい代物じゃない。ラメのアクセにスパンコールの帽子。ショッキングカラーのフェイクファーの襟巻きに、羽グッズ。でもそれらが集団で視界の中に押し寄せてくると、かなりのインパクトである。店の奥には仮面舞踏会で顔につける、あのアイマスクのスパンコール版もずらり。キューブリックの遺作「アイズ・ワイド・ショット」でトム・クルーズが喜んでかぶっちゃいそうな、アブない雰囲気が漂ってる。
 ちなみに、おばさんが配っていたチラシには「ホット・アイテム」なんて書いてあったっけ。ホットって、クールに比べて名前だけじゃない暑苦しさがあるなぁという気がする。たとえば、シーズ・ソー・クールって言われる女の子が洗練されてお洒落な雰囲気なのに比べて、シーズ・ホット!なんて言われる女の子は、どこか時代遅れの色気ねぇちゃん。なんだか西部のバーで、おっちゃんたちが舌なめずりして眺めてる、みたいなさ。ここの品はね、そう確かにHOT。洗練とは対極にあるお茶目なおふざけグッズといおうか。
 それにしてもアメリカ人って「極端」が好きだ。どうせ派手にするなら思い切り派手にしないと気がすまないんだろうね。まだこの店は、小物を扱っているだけだし、ジョークっぽい感覚が店内に漂っているのだが、そこに「マジメ心」が入ると、もちっと怖い気がするぞ。そして私はそんな店もみつけてしまったの。
 それは、ミッドタウンのファッション卸売り街界隈に並ぶスパンコールドレス屋だ。もう並ぶ店並ぶ店、ショウウィンドウにはことごとく不死鳥ドレス。ああ、ここに美川憲一や小林幸子がいたらどんなに目を輝かすことであろうか。面識はないが、ご一報したいほどである。でもあなどっちゃあいけない(何をだ!?)。サンクスギビングを終えた途端、街はいきなりクリスマスやニューイヤー・イブのパーティー・シーズンへと突入する。きらきらブームは、カラスおばちゃんの「ホット」な店や、演歌歌手御用達の店だけじゃない。いわゆる「普通の」ブティックにもすっかり浸透しているのだ。私はフツウ〜の服を買いに来たんだよう。ラメとかスパンコールはいいのよぉ。どの店のマネキンも、そんな私の心の叫びを無視して、眩しい光を放つ服をまとっているんである。
 しかも馴れとは恐ろしい。いつかそういった派手っちい服がごくフツウに見えてくるのはどういった心理作用であろうか。私が結構、嫌いじゃなかったってことか。そう。嫌いじゃないのよ。光りもの、弱いのよ。自分の潜在意識を認識した私の髪の毛には、今、きらきら光るアクセサリーがひっついている。近頃流行している、マジックテープでくっつけるタイプのスパンコールのお星様や花のかたちのヘアアクセである。これってワンポイント・ゴージャス!? 私の年齢でつけても許されるものか、はなはだ疑問なのであるが。おお、こわ。え?日本でも流行ってるの? ああ、よかった(←なぜか安心してる)。
 関係ないが、私の大好きなゲイのブラックの男の子は、私の顔を見るたび「ヘイ、ゴージャス!」ってな言葉を投げてくる。なんかね、あれは嬉しくなっちゃうなぁ。挨拶だとわかっていても、さらりとゴージャスなんて言われちゃうと、いい気分じゃない? 日本じゃ、どこか違った方向に使われてるって気もしない言葉だしね。ナントカ姉妹しかり。しかし人工的な飾りを必要としない真のゴージャスって、ほんと、手に入れるの難しいよねぇ。
(追記 in 2001/3)
 そう、私はなんだかんだ言い訳しても結局「光りモノ」に弱い。だがこの光りモノを着こなすのって本当にむずかしいよね。一歩間違えるとかなりズレてしまう。たとえばローレン・ハットンみたいないい女が、ラメのアメリカン・スリーブのタンクトップにジーンズなんていう様はかなり絵になるのだが。ドラッグクイーンがゴージャスの極みを尽くして、ストリートをしゃなり歩く様もいけている。やりすぎもほどほども関係ない。結局、ゴージャスが様になるのは、中身が外見に見合っている場合のみなんだよなぁ。私はまだまだヒヨッコだす。

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2000 February  気分はハバナ その1
●今月のお買い上げ
地図の絵本「Mapping the world」 $16

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                                    合計 $16
 
 日本でも映画「ブエタ・ビスタ・ソシアル・クラブ」が公開されたそうで。これで日本国民の血中ラテン濃度もぐぐんと高くなることでしょう。めでたいぞ、Y2K。
 と言いつつ、前に書いたコラムを読み返してみたら。映画を見てやたら感動した私(お暇な方はVol.2参照)、気分はハバナ〜♪と歌いつつ、なぜ近場のニュージャージー州などでカリブ気分に浸っておるのか。我ながら、謎だ。おまけに、ヴィクトリアン調のB&Bでラムを飲んで踊るという設定にも、かなりの無理があるぞ。もっと真面目に物を書く姿勢に取り組まねば。反省しつつ、ミレニアムは心を入れ替え、もっと勤勉になろう、ワープロもカナ入力じゃなくローマ字入力ができるよう頑張るぞ、と誓うのである。
 そんな私に、ラテンの神様(どんなんじゃ!?)はご褒美をくださったらしい。なんと! 本物のキューバに行けることになったのである! キューバよハバナよ、しかも憧れのブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのミュージシャンの方々の取材だよ。
 80歳を越えた伝説のピアニスト、ルベンおじちゃまや、90歳を越えてまだ子作りにいそしむ(!)コンパイ・セグンドおじいちゃまにもお会いできるのだ。夢心地の私は、ふたつ返事で即答。行きます、絶対。連れてってくれ! 一瞬、二ヶ月も遅れてる原稿や、友人のためにクリスマス・バーティーのメシ炊きを引き受けていたことなどが、頭をかすめる。が、当然、ふりきる。キューバのために仕事や友人をなくすなら、本望であろう……。
 すでに大好きな村上龍の「KYOKO」を読み返した私の体は、ルンバやチャチャチャを踊る天才ダンサー、キョウコになりきっている。と、浮かれる私に東京の編集者の友人は、冷静に言い放ったのであった。
「オレたち、日本から直接行くからさ。NYのきみとは向こうで合流ね」
 それからだ。私が、キューバへの至難の道のりと格闘しはじめたのは。
 いやぁ、予想はしていたが、ここまで大変だとは。まずヴィザがとれない。情報もない。ワシントンDCにあるキューバ領事館にかれこれ50回は電話をしてみたのだが、スペイン語の留守録メッセージが流れるだけで、だぁれもでない。キューバとアメリカの国交問題は想像以上に険悪で、アメリカ国籍の者のみならず、アメリカに住んでいるというだけで、キューバに行くのはかなりの困難を擁するのである。むろんアメリカの旅行社に、キューバのキュの字もない。法律で航空券を売るのを禁じられているのだ。「キューバになんか行っちゃいけません」と公的に言っているわけではない。しかし現実的には、観光旅行で訪ねるには不可能なほど低いUS$の使用限度額が定められているのだ。犯した人間に対する罰金は数百万円。いわゆる経済制裁というものらしい。こうまでされると、逆に燃えるのが人間のさがというもんであろう(私だけ?)。
 国と国がこうまで不仲になった真の要因は、日本人の私にはおろか、一般レベルの当国の庶民にも解らないのではないだろうか。アンティークの地図が好きな私は、数世紀前の美しい地図を集めた本を眺めながら、近くて遠い国に思いを馳せる。この地図をつくった頃とは想像もつかないほど世界は狭くなっている。それでもいまだ、具体的な「距離」ではなく、「大人の事情」によって辿り着けないほど遠い国があるということ。おりしも、CNNニュースでは毎日のように、キューバから亡命してきた少年の保護をめぐって、両国の間に流れる新たな不穏の空気を報じている。こんな時期にキューバになんぞ出掛けたら、帰りの入国審査でアメリカに入れてもらえないのではなかろうか。
 さまざまな不安を抱えながらも、どうやらチケットも確保し、ようやく行けることになった。万一帰りのアメリカ入国で引っかかったときのために、弁護士の連絡先も持っていく。スリル満点の旅である(涙)。ということで、今月は万一つかまったときの法外な罰金に備え(?)、本一冊というしょぼい買い物ざんす。では行ってきます。ということで、興味のあるかたは、二月発売のスイッチ別冊のブエナ・ビスタ特集本、見てね。このコラムとは別人の、きわめて叙情的なわたくしが(ほんとか!?)、皆様をハバナの楽園にいざないます。というか、本当に帰還できるのか? 次回速報を待て。アディオス・アミーゴ。
(追記 in 2001/3)
 今だに巷じゃ、キューパン・ミュージック人気さめやらず。
けれどあれから哀しい出来事もあった。日記にも書いたが、取材した
音楽家ミュージシャンの一人が亡くなったのだ。そしてアメリカとキューバの間は、今も遠い(まぁ、一年で解決するような問題でもないけれど)。それでもなんとか頑張ってもう一度行きたいなぁ、キューバ。次はハバナだけでなく、情緒ある坂の街サンチアゴ・デ・クーバもゆっくりと歩きたい。そんな今、私は出版されたばかりの村上龍さんのキューバ小説「タナトス」が日本から届くのを、心待ちにしているんだよん。今年の私のテーマはキューバン文学に触れること。ラテン・スペイン語にもう一度挑戦すること、このふたつだ(はたして叶うのか)。ちなみにあれから、コンピュータで原稿書きは出来るようになったものの今現在も「今どきいない」カナ入力。そして勤勉なんてとんでもなく、怠け癖は高まるばかり。てへへ。抱負ってほんと「負けを抱く」だよね。


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