さあ、いよいよ温泉帰国の日が近づいてきた(あれ?確か先月も同じこと書いてたな)。その前に、仕事もそうだがあれこれやらなきゃいけないことがある。温泉旅館の予約とかさ。他にも温泉ホテルの予約とか、温泉民宿の……はっ。誰が読んでいるか解らんので、このへんでやめとこう。でもそうだな、他にも、日本で買うもののリスト作りなんかも必要だよな。
しかし私の買い物ときたら、どうも所帯じみているのが哀しいところだ。日本の友人たちがNYに来るときの気合の入りようをふと思い出す。彼らときたら、フィガロやブルータスの特集記事などを手に、何やら暗号のような言葉を唱えつつ買い物に走り回るのが常だ。シンシア・ローリーのワンピとかナイキのスニーカーは型番がこれで、Kスペードのバッグで伊勢丹で売ってない型は……etc。おおっ、暗号化された物欲って、やたらおしゃれに聞こえるのはなぜ!?
それに比べ、日本での私の買い物リストときた日にゃ、おしゃれでも何でもないのである。大正漢方胃腸薬でしょ、おそうじクイックルの替えシート、たんすにごん引出し用。これ、買い物というより買出しだ。こほ。まぁ、海外に住むというのはかくも現実的な問題をはらんでいるのさね(←根っからの性格とは言いたくないらしい)。それにしても、こちらのドラッグストアならお金を使うといってもたかが知れている。薬も安い。ただし処方箋の薬は抜かしてであるが(←これはバカ高い)。しかし日本はどう?マツモトキヨシにサンドラッグ。一年分まとめて仕入れるというのもあるが、気づかぬうちにものすごい散財してしまう。グッチの靴でも買えそうなほどよ、ほんと。今や飛行機代、飲み代(これがおっきい)ひっくるめ、日本への里帰りというのは、私にとって一大浪費旅行を意味するのである。一隠居人に、これは結構痛いよ。
だが、しかし。セコい、いや、堅実な私はちゃあんと帳尻あわせも用意している。留守の間、アパートメントの部屋をサブレット、つまり又貸しするのだ。これで飛行機代くらいは楽に捻出できる。ふふふ。一ヶ月以上もの間、留守宅にしておくのは無用心だし、一石二鳥とはこのことよ。ここがアメリカのいいところだ。日本では賃貸し物件の又貸しというのはご法度だけれど、こっちではとてもポビュラー。フリーペーパーやインターネット、ランドリーやストアの掲示板を覗けば、山ほど借りたい人&貸したい人のアドが出ている。だが、人選びにはむろん慎重さを要する。何しろ見知らぬ他人に部屋を明け渡すのだ。もし相手が悪いヤツだったら!? コンピュータや大好きなCD、アクセつくり用のビーズや、海で拾った石や貝殻(これに関しては、だれが盗る?と友人に呆れられたが)……帰ってきたときにぜぇんぶ消えちゃっているとも限らない。これは泣くしかないぞ。というのも、実際知り合いからそんな話を聞いたのだ。彼と奥さんは、長期で故郷に帰る期間、部屋を人づてに貸したのだそう。しかし戻ってきた彼らを迎えたのは、恐ろしい状態に荒れ果てた我が家だったという。おおこわ。まさに映画「パシフィック・ハイツ」のメラニー・グリフィスの心境である。
それに借り手側のチェックも結構厳しい。「借りたい!」と思わせる部屋づくりが、いい借主探しの基本なのだ。インテリア雑誌を見てあれこれ考えるのが好きな私。これを機会に模様がえでもしようかと、ここぞとばかり憧れだけは膨らませる。思わず今回も、アメリカ人のライフスタイルの教祖様、「マーサ・スチュアート」の本など買い込んで、ファブリック使い、真似したりして。
私の場合、基本的にサブレットの相手は日本人オンリーにしている。いくら綺麗好きといっても、土足文化の人間とでは、部屋に関する感覚は違うはずだからだ。本来なら、友達の知り合いあたりが借りてくれたら安心なのだが、時期的にマッチする人はそうもいない。そこで日本系のスーパーマーケットや書店の掲示板に張り紙をする。前に一度自宅の電話番号を書いたら、朝からがんがん電話がかかってきてたまらなかったので、それ以来留守電専用のヴォイスメイルを記しておく。そしてこちらから連絡し、興味のある人にはまず部屋を見てもらうのだ。今までの経験で言うと、女より男の人のほうが部屋を綺麗に使ってくれることが多かったのが不思議なところ。私が住んでいたときよりも、掃除が行き届いていたりして、びっくり。ずぼらな私はおもわず、物腰のきちんとしたそのサブレット相手に訊いてみた。
「いつもこんなに綺麗にしてるの?」すると彼「いやぁ、女の人の部屋なので、キンチョーして出るときしっかり掃除しちゃいました」だって。かわいい(あ、いけない。またオバさん根性が)。
それに反し、ある女の子のときには、クッションやカーペットの上が化粧品のパウダーやボディローションで汚されたままになっていたことがあったっけ。これって、公共バスルームのシンクを汚したまま立ち去ってしまう人の感覚に近いかも。女って、同性の前では気が緩み、ときにマナーを忘れがち。それ以来、女の子を選ぶときはかなり鋭い目でチェックを入れる私である(こわ!?)。電話の言葉使いからも人のなりは伝わってくるしね。「デポジットを負けてくれませんか」など、お金にルーズそうな態度をとるひともNGだ。そういうひとは何に対してもルーズな気がしてしまう。万一のためのデポジットはこちらでは常識なわけだし。今回も、用心深さの甲斐あって(?)、とても感じのいい日本人の女の子に借りていただけることになった。めでたし。
そして最近知ったのが、サブレット探しを代行してくれる日本の業者があるということ。友達が頼んだのだが、きちんと管理してくれてとても助かったそう。手数料はとられるが、それを引いても充分な額で貸せたと彼女も喜んでいた。借りるひとにとっては上乗せされているから割高にはなるが、それでもマンハッタンのばか高ホテル事情を考えればずっと安い。それに旅行者の立場からいえば、生活感が味わえて楽しいのではなかろうか。まさに需要と供給のマッチングである。
ああ、今回もまた、行く前より部屋が綺麗になってるといいなぁっと。図々しい皮算用を毎年たくらむ私なのである。
(追記 in 2001/1)
このときの女の子は何ヶ月かたった後も、丁寧な字で葉書をくれたりもした。当時は国連、今は外務省にお勤めだそう。なるほど、とあの礼儀正しさを思い出す。去年は、友達の知り合いの女の子が部屋を借りてくれることに。ただし、最初は互いに疑心暗鬼。先方はデポジットのシステムに慣れていなかったらしく、「本当にそのヒト(私のこと)大丈夫なんでしょうか」と間にたってくれた友達に聞く始末。私は私で、そんなに心配なら別に無理に借りてくれなくても、の心境になったりして。やはりこういうことは、互いの疑問を事前にすべてクリアして、ビジネスライクにあれこれ取り決めておいたほうが、すっきりするかも。間に立つ友人に迷惑をかけないためにもね。が、いざ会ってみたら、互いの心配も溶け、その後はメイル友達にもなった私たち。日本から気軽にメイルで部屋の様子を聞けたりして、安心だったな。ほんと、プライベートな住処を他人にいっときでも引き渡すというのは、何かと気がかりなもんですな。
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