vol.2
    Don't go over $30!
       ニューヨークのおこづかい帳
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1999  August  お祭り的簡単ドレス
●今月のお買い上げ
簡単ドレス         $15
アンティーク・ラベル    $10
買い食いオニオン       $5
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                      合計 $30
 
 どこの国に行っても、祭り好き人種というのはいるものだ。で、私も果たしてそうかも!?と思う今日この頃、NYは夏真っ盛り。といっても、阿波踊りやねぶた祭り、リオのカーニバルなど、いかにも大仰な「これぞ祭り!」って催しにはそう興味ない。ニューオーリンズにはいつか行ってみたいと思うも、出来たら狂乱のマルディグラの時期は避けたいなぁと思っているのである。「大袈裟な祭りは、体力的にも気分的にも疲れちまってね。なんせ隠居の身だからねぇ、あたしゃ」…という程度の丘サーファーならぬ丘・祭りLoverなのだ。
 できれば、どこかの神社の境内で地道〜に、しょぼしょぼっと、やっているようなのがよろしい。地元の人しか来ず、並ぶ屋台もどこかこじんまりとした縁日なんていいねぇ。とどのつまりゴージャスなものより、ジャンクなお買い物や「買い食い」ムードが何よりも好きなのだ。テキヤのおじさんのやさぐれた立ち振る舞いも素敵(というより、本能的な同朋意識か)。そんな私は、小説すばるで連載しているみうらじゅんさんの、ヘンテコな祭り探訪記「わびさびたび」の愛読者でもある。
 「マイナー祭り」通の私としては、NYでももちろんその手の催しに出かけていく。ヴィレッジヴォイスやNYプレスのイベント欄に載っているストリート・フェアがそれ。
 このストリート・フェア、フリーマーケットに似ているが、ちと違う。その名のごとく週末を中心に、通りを何ブロックか閉鎖して行われる移動イベントである。ときには移動遊園地まで登場し、いきなり通りをロバが歩いていたり、昨日まで空き地だったところにミニ・ジェットコースターが出来てたりもする(今にも壊れそうで、コニーアイランドのコースターより百倍こわいぞ)。これで呼び込みの怪しい見世物小屋でも出現すれば、まさに私の大好きなレイ・ブラッドベリの名作「なにかが道をやってくる」の世界なのだが。ここは能天気なマンハッタン。そこまでおどろおどろしいサーカスがやって来ないのは、残念無念である。
 かわりに購買欲はかきたてられる。フェアの中身はお店中心。色々な露店(こちらではヴェンダーという。なんかお洒落で雰囲気に欠けるなぁ)が通りの両脇にずらり並ぶのだ。NYでは厳しい冬の間は見かけないから、フェアがあちこちで始まる5月になると「ああ、長い冬も終わったんだなぁ」などと、しみじみした気分も呼び起こされるってもんである。
 これらのフェア、「三番街アート&クラフトフェスティバル」とか「チェルシー・ゲイ・プライド・フェア」などと一応テーマらしき冠が掲げられている。が、なんのことはない。中身はどれもほぼ同じなのだ。こうも飽きずに何年も通いつづけていると、ヴェンダーたちの顔ぶれが毎年同じということまで解ってくる。
「あ、この布団屋さん、先週はあっちのフェアにいたな」とか「この服、この前買い逃したけどまた出会えてよかったよかった」等。ますます地域祭り的親近感もわいてくるのよね。
 私のお気に入りは、食べ物だと何でも$2のタイ・フード屋さんと、ブルーミング・オニオンだ。これは放射状に切れ目を入れて揚げたでっかいオニオン。揚げた途端、ぱーっと花が咲いたように広がるのを熱々で紙皿に入れてくれる。これをむしって、ディップにつけて食べるとむちゃ美味しいのだ。焼きもろこしも、日本ぽくていいな。こっちのは皮ごと焼いて、その場で溶かしバターやスパイシーなパプリカやらを、自分で好きにふりかけて食べる。うーん、香ばしい。あ、書いているだけでヨダレが……。
 各種フードの他に必ず見かけるのは、化粧品グッズの店(クリニークやらレブロンやらのいかにもサンプル!って感じの商品を山積みしたアヤしい店)や、日本のテキ屋世界に通じそうな刃物関係の店。ここで買った爪切りやハサミ、切れ味がよくて愛用している。
 そして夏のフェアで私がまめにチェックするのが、ストリート・ウェアの店である。ここで売られるぺらぺらのドレス、夏の間本当に重宝するのだよ。昔のおばさんが夏になると着ていた「簡単服」(これってアッパッパーとか言わなかった?)ならぬ、簡単ドレスという感じでらくちん、らくちん。涼しい。安い。プリント柄も豊富で、けっこうおしゃれ。なにより、すぽっと一瞬で着れるのが面倒臭くなくていい。三拍子以上揃った便利服2,3枚あれば、ずぼらな私はひと夏過ごせてしまうのさ。難を言えば、洗濯をするとレーヨン素材の生地がぐんっと縮むこと。突如ボディコン(死語?)になったりしてしまうのだが、それも道端の道路工事のおっちゃんに「ヘイ、ベイビー」なんて声かけられて、いと楽し。まぁ私なんて、あらかじめワンサイズ上のものを買ってどれくらい縮むかスリルを楽しむ、つわものの域に達しているのであるが。
 最近出かけたストリート・フェアでは、アンティークのラベルや看板やさんも見かけた。早速$15で、縁がさびかけて味のある昔のフード・ラベルを買っちゃった。昔のラベルのデザインて本当に雰囲気ある。とくに果物や野菜の種なんて、シード・レベル・コレクターが多いというのも頷けるほど、一枚の絵としての魅力にあふれている。予期せぬ珍しいスパイスや、バナナ・リパブリックやJクルーのアウトレット品が山と積まれた店もある。やっぱこれだから、祭りはやめらんないねぇ、おまいさん(べらんめえ調で)。

(追記 in 2001/1)
 最近になって、前にストリート・フェアで買っておいた新しいシーツセットをおろした。コットン100%とパッケージに書いてあるが、この手触りはどうみてもポリエステル……。渋めのペール・グリーンの色合いが気に入って買ったのだけど、広げてみたら半分のところでくっきり色が変わっていた。長いこと日に晒されて色やけした返品か不良品だったみたい。ストリート・フェアでシーツを買うのはもうよそう、と誓った私。それでも今だにフェア通いはやめられない。というか、いつかは参加してみたいなぁ。そして着物かなんか着てお団子を売るのが、目下の私の夢である。

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1999 September  ラテンと遠く離れた町
●今月のお買い上げ
幽霊ブック                $8.95
灯台ジグソー・パズル         $5.98
ビクトリアン・カレンダー 2点で  $2
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                                    合計 $16.93
 
 年間聞きこんできたライ・クーダー・プロデュースによるキューバン音楽「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」が、ヴィム・ベンダースのドキュメンタリー映画になって公開された。で、早速行ってきましたん。いやー、やっぱりラテンはいいなぁ。終わった後、観客もみな熱い拍手をスクリーンに贈っていた。やっぱり血中ラテン濃度が高い人間だと、自分のことを再認識した次第。自然に、海のほうへと心も誘われるというものだ。
 気分はもうハバナ。でも突発旅行には、カリブやフロリダの島々は、時間的にも予算的にもちと無理がある。ということで、なぜか思いたって、ニューヨークのお隣の州、ニュージャージーの南端に行ってきた。ケープメイという風光明媚な(らしい)土地である。着いてみるとそこは、いわゆるアメリカの正統的な観光地、という雰囲気。ビーチ沿いのボードウォークをはさんで並ぶ、ビクトリア調のアンティークな建築様式の家々。綺麗に整えられた庭木からは、小鳥のさえずりが聞こえてくる。そののんびりと平和な街並みの麗しいこと……。ひとことで言えば、熱く濃いラテンの空気とは、対極にある場所に迷い込んでしまったようなのだ。通りをそぞろ歩く観光客も、退職した老夫婦や女性のグループばかり。それもほとんど白人オンリーである。ヒップなブラックキッズにはあくびの出ちゃう場所なのかもねぇ。東洋人なんて、四日間で二組しか見かけなかったぞ。
 まぁ、ビーチはビーチ、そう変わりはないよね。と浜辺に寝転び、ウォークマンで流すカリビアンミュージックで気分を盛り上げた後、街を散策。するとそこはもう、何というか。自分が後十歳若くて、ローラ・アシュレイとテディ・ベアが好きで、趣味がキルトづくりなんかだったりしたら、「いや〜ん、可愛い。どうしよう〜」の世界である。哀しいかな、おやっさんな私にはどれもあてはまらない(いや、渋い柄のキルトは結構好きなのだが、根気のない私には手が出せない)。それでも、胸の中で呟く。
「まぁ、ここに住めと言われたら、住んでもいっかな〜なんて」(←誰も頼んでないって)
 これが、清里あたりのペンションで、日本的情緒の中にとってつけたようなぴかぴかの「アンティークもどき」もしくは「丘アンティーク・ラバー」だったら、こっぱずかしくて住めないけどね。何しろ手作りジャムより出来たて塩辛、レースのハンカチより手ぬぐい、の人格であるからして。
 しかしこのニュージャージー南部に建ち並ぶ家々。見せかけではなく、ものほんアンティーク・ビクトリアンばかりだ。軒下やポーチに施された木彫りの透かし模様など、ファンシーというより職人芸の域に達している。本格的な建築様式の持つ壮麗さは、時を経るほどに味をます。これらの家々は、修繕を加えられ、B&Bやゲストハウスとして貸し出されているところが多い。週末でも観光シーズンでもないのに、「NO VACANCY」の札がかかっている家がほとんどだ。特に、小ぎれいな家よりは、壁のペイントがはがれかけた古めかしく味のある家ほど、人気があるみたい。アメリカは、ヨーロッパと比べ物にならないほど、その歴史の浅い国。殊更、こうした「時間の染み込んだ」様式に憧れを抱くのかもしれない。
 それにしても、参ったのはオミヤゲです。編集部からの「コラム用によろしくね〜」のお達しを、「はいはい、まかしとき」と気軽に請け負った私。どこにいってもくまなくスーベニアショップを見回る私は、自称お土産屋マニアなのだが。うーん、ここでもやはりいつもの定理に突き当たる。どうしてどこの観光地も同じようなものしか置いてないのだ!? 名前だけ変えたキーホルダーや、安っぽいキャンドルスタンドは日本もここも変わりない。貝細工のフクロウや小物入れなんて、ここは江ノ島!?の世界である。
 そんな中、ケープメイの特徴を少しはとらえたものをようやく見つけた。クドいととるか、愛らしいととるかはその人次第のビクトリアン・グッズに(私にはこてこてすぎるぞ)、灯台グッズ。アメリカ人はどうやら灯台がお好きなようだ。各種雑貨に、カードや名前シールまで見つけたもん(そんなシールを利用するのは灯台守りくらいのもんでは?)。そして、きわめつけ!の幽霊マップ。旧い街並みにつきものの、超常現象の穴場をめぐる本だ。本の種類もやたらとある。どれも、何百年も片足の猫が住む家や、ドアがぎしぎし窓がばたんばたん、の不思議館が延々紹介されている。あまり爽やかとはいえないページをめくりながら、ひそかには決意した私。やっぱビクトリアン・ハウスには頼まれても住まないぞ。
 ……と、ふと気づく。どこがラテンだ!?

(追記 in 2001/1)
 これを書いているときには、まさかその年の暮れに本当に自分がハバナに行けるなんて、しかもブエナ・ビスタの面々に取材出来るなんて、思ってもみなかったんだよなぁ。感慨ひとしお。日本があんなにキューバ・ブームに沸くとは想像もつかなかったし。それにしても、せめてマイアミのリトル・ハバナにでも出かけていけばいいものを。やたら地味で自分のキャラクターとは似つかない場所に出かけていくとは。いつのまにか可愛いグッズをあさっている自分を思い出し、苦笑いである。でも灯台というのは、どこか惹かれる場所だ。機能もそうだが、形としても美しく完成された建物だ。ビクトリアン・ハウスは無理でも、カリブの海を見下ろす灯台に住むってのもいいなぁ。めざせ、ラテン灯台守り。


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